カスタマーレビュー

2018年8月10日に日本でレビュー済み
「まるでカルトの教祖だ。集団自殺を煽りかねない」

これは劇中で主人公デヴィッドが『悪役』である聖書狂のカーモディ夫人に対して言ったセリフです。
ですが、結局のところ生存者を扇動して集団自殺を起こした最悪の『カルト教祖』はデヴィッド自身でした。

終盤のカーモディ信者によるジェサップ二等兵殺害も、よくよく見ればカーモディ夫人は指示しておらず、ただ殺害シーンで驚いています。
というかそもそも主人公たちが「スーパーの外に脱出する」という愚行を計画しなければ、あんな騒ぎは起こらなかったわけです。
そして、彼女の「スーパーの外に出ずただ待つ」という政策(?)は劇中に登場するリーダーたちの中で
唯一現実的かつ合理的なものです。実際、カーモディ夫人を信じてスーパーに残った信者たちはおそらく全員生き残っていることでしょう。

そして、翻って主人公の行動を振り返ると、実はこの映画の中で死んだ犠牲者はほぼ全員主人公のせいだとわかります。
みんなを扇動して外に出ていった黒人弁護士ノートンは、主人公がへたくそな説明で怒らせるまでは慎重派でしたし、
「明かりを付けるのは何か来た時だな」とジムに指示していなければ深夜のイナゴ襲来であれほどの犠牲者は出なかったでしょう。
わざわざ「死にたい」と言っている重症患者のために薬局に行くくだりに至っては最悪です。
結局患者は死ぬので無駄骨ですし、あの時薬局探索に行ったメンバーは三分の一近くが死亡してしまいます。
そして極めつけの愚行は最後のスーパー脱走と集団自殺……

ですが、この映画の非常におもしろいところは、このようにどう考えても危険な扇動者は主人公・デヴィッドなのに
まるでカーモディ派の方が愚行をしているように見える点です。
「余計なことせずスーパー内部で待つ」というのはあの状況では最も賢明な選択で、実際主人公もそれを主張していたはずなのに。

視聴者は最後の最後まで、「あんなカルト婆さんに従うなんて馬鹿な連中だ。『主人公』であるデヴィッド様に従えば助かるのに」と信じ込み、そしてラストシーンでその狂信の報いを受けます。
これは視聴者に対する非常に強烈な皮肉ですね。「君たちこそがカルトだったね」という。

また「最後の伏線が無い」などのレビューも散見されますが、映画中盤でこれ以上ないほどの伏線があるじゃないですか。
「極限状態では人は簡単な解決策を示す人間に従ってしまう」「カルト教祖が扇動したら、いずれ集団自殺をしかねない」という要旨の主人公たちの会話があります。
これ伏線というか、終盤の展開そのまんまですね。
主人公たちはカーモディ夫人こそが「極限状況で簡単な解決策を示すカルト教祖」だと思っていたわけですが、
自分たちこそが危険なカルト集団だとは夢にも思わなかったわけです。
根拠もなく他者を絶対に間違っていると思い込み、自分たちを絶対に正しいと思い込む――その思想が、カルト宗教そのものなのに。
1,833人のお客様がこれが役に立ったと考えています
レポート 常設リンク