ツイッターなど120以上のメディアを常時監視し、“炎上”の兆しを検知する。AI(人工知能)と人力で企業の対策を支援。内部不正やテロのリスクにもビッグデータで挑む。

<b>不祥事発覚後のSNSへの投稿を監視・分析し、企業に対応をアドバイスする。写真左の男性が菅原貴弘社長</b>(写真=陶山 勉)
不祥事発覚後のSNSへの投稿を監視・分析し、企業に対応をアドバイスする。写真左の男性が菅原貴弘社長(写真=陶山 勉)
某社の不祥事における投稿量の推移
某社の不祥事における投稿量の推移

 「ハンバーグにホチキスの針が入っていた」。そう指摘した客を、ある飲食店の店員がおざなりに対応。困った客は本部に問い合わせたが、満足できる対応ではなく、怒りにまかせてツイッターに顚末を書き込んだ。その後、飲食店はSNS(交流サイト)の“ 炎上”を火消しするため、謝罪に追い込まれた──。

 SNSの普及で、誰もが簡単に情報を発信できるようになった。その結果、顧客がネット上に発信した情報に対して、企業が不適切な対応を取ると、思わぬ形でその情報が拡散して、信用を揺るがす事態に発展するようになった。

 東京都千代田区に本社を置くエルテスは、こうした炎上の火種となるSNSへの書き込みを、AI(人工知能)を使ったシステムで検知。書き込みの対象となった企業に、炎上する前に知らせて対策を支援するサービスを展開している。

 AIには、顧客の企業名や商品名のほか、炎上の火種になりそうなネガティブな言葉を覚えさせておく。例えば、飲食企業であれば異物混入に関連する「入った」「紙」「ビニール」「虫」などだ。こうした言葉から、投稿がネガティブなのかポジティブなのか、ニュートラルかを判別。機械学習で判別精度は自動的に高まっていく。

 検知する対象は、ツイッターやフェイスブック、インスタグラムといったSNSなど、120以上のインターネットメディア。AIで24時間365日モニタリングしている。投稿の内容が深刻だったり、投稿数が急増していたり、緊急性が高いと判断された場合は、即座に同社の担当者が顧客企業に連絡し、対応を支援する。

 モニタリングは基本的にAIが行うが、最低4時間に1回は同社の担当者もAIが検知した投稿の内容を確認する。日本語の機械学習はまだ精度が不十分で、最終的には人間の判断が欠かせないからだ。

 SNSでの炎上は、最初の書き込みから実際に炎上するまでにタイムラグがあることが多い。エルテスによればその火種をできるだけ早期に発見して対応することが重要だという。

 こうしたエルテスのウェブ監視サービスを利用する企業は、大手航空会社や食品、外食、ホテルなど、400社以上に及ぶ。

 2017年2月期の売上高は13億6900万円、営業利益は1億8400万円を見込む。過去5年の売上高の年間成長率は平均で40%超と、業績は堅調だ。

売上高は5年で6倍に成長
●エルテスの売上高
売上高は5年で6倍に成長<br /> ●エルテスの売上高

口コミサイトで成長に弾み

 エルテスの創業は2004年。創業者である菅原貴弘社長は、東京大学経済学部在学中から、起業家を目指していくつかの事業を立ち上げた。その中でも、2006年頃に流行していた口コミサイトに関する事業が、今のウェブ監視サービスを始めるきっかけとなった。

 菅原社長は、口コミサイトを自ら開設するのではなく、書かれている誹謗中傷に関心を持った。その対策を事業化した方が、既存のサービスと差異化できると考えたからだ。検索エンジンの上位にある事実無根の内容が書かれたブログなどを調べて、企業に対して正しい情報を発信するようにコンサルティングをすることにした。

 当時の顧客企業は、単価の高い不動産販売や結婚式場などが中心だった。サービス体系は月額30万円から、契約更新は1年ごととシンプルに設定して、顧客を増やしていった。

 次の転機は2011年に訪れた。東日本大震災をきっかけにツイッターを使う人が急増して、食品など身近なモノやサービスへのクレームを書き込み、炎上する事例が増えていった。

 そこでエルテスは、前述のように、投稿内容をAIで検知する仕組みを開発し始めた。神戸大学や東京大学との共同研究によって、AIのシステムの開発を進めたほか、投稿される写真がネガティブかどうかを判定する画像技術も、徳島大学と研究している。

 顧客を増やすため、炎上の傾向や企業の対応をテーマにした無料セミナーを実施しているのも特徴の一つ。導入先が増えただけではなく、毎年の契約更新率が95%に達するほど好評だ。

内部不正やテロまで防ぐ

 2016年からは、新たなサービスとして、従業員による情報流出のリスクを把握する、内部不正を検知するサービスも始めた。

 重要文書へのアクセス回数やインターネットの検索履歴、勤怠記録や印刷記録などから、リスクの高い動きをデータとして蓄積。そうして集めた“ビッグデータ”を解析することで、内部不正の兆候を察知して、企業に伝える。月額のサービス料は50万円からで、金融機関や顧客情報を多く保有する企業の導入が増えてきた。

 さらに2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、テロの予兆を検知するビジネスを展開していきたい考えだ。「最近のテロリストは、インターネット上に犯行を予告するケースが多く、予兆の検知が重要だ。民間企業だけではできないことも多いので、政府機関などを顧客としてサービスを展開していきたい」と菅原社長は話す。既に、2016年5月に伊勢志摩で開催された先進国首脳会議に関して、開催前からウェブ上のリスクモニタリングを実施した実績がある。

 同11月には東証マザーズに上場した。同時期にビッグデータの解析で定評のあるエストニアの企業とも業務提携し、信用力や技術力を武器に販路の拡大を目指す。

 会社の規模も拡大し、創業時は4人だった従業員は78人に増えて、今春には8人の新入社員を迎える。「ウェブからテロリストを見つけようと取り組む企業は少なく、海外企業も撤退してしまう例が後を絶たない。世界中の知見を生かしながら、しっかり根を張って成長していきたい」と菅原社長は意気込んでいる。

(日経ビジネス2017年2月13日号より転載)

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