レビュー

SFP端子付き無線LANルーターを“AV用”に即買いした話

テレビをはじめ、あらゆる家電製品がネットワークにつながる時代、ホームオーディオ系の製品もネットワークに接続するのは当たり前。そのベースとなる無線LANルーターをどのように選んでいるだろうか。あまり気にしていない、という人も多そうだが、まさに筆者もそのうちのひとり。1年ほど前の引っ越し後、生活が落ち着いてきても手付かずになっている部分のひとつで、契約したNURO光から支給されたONUに無線LANルーター機能が入っていたので、そのまま使っていたのだ。

ONUはZTEの「ZXHN F660A」。対応通信規格はIEEE 802.11a/b/g/n/ac、つまりWi-Fi 6(802.11ax)には非対応のモデルだ。やっぱりWi-Fi 6に対応したほうがいいよね、とは思いつつも放置していた。

自宅での無線LANの主な用途はスマホでのインターネット接続のほか、Apple TV 4K(第2世代モデル)での動画再生。Apple TV 4KはAVアンプ→テレビへとつないであり、Amazonプライム・ビデオ、Netflix、YouTube、Apple Musicなどの再生機として稼働している。

自宅1階リビングルームで使用中のApple TV 4K(第2世代)。無線LANルーターの設置場所は2階で、有線LAN接続は難しい状態だ。余談だが、Apple TV 4Kを使っているのは、Netflixなどの映像作品を(元素材のまま)24p再生可能だから

自宅1階リビングルームで使用中のApple TV 4K(第2世代)。無線LANルーターの設置場所は2階で、有線LAN接続は難しい状態だ。余談だが、Apple TV 4Kを使っているのは、Netflixなどの映像作品を(元素材のまま)24p再生可能だから

Wi-Fi 6に対応したほうがよい、と思っていた理由はこのApple TV 4K。元々は有線LAN接続で安定した再生を……と考えていたのだが、間取りの都合で無線LAN接続を余儀なくされていたのだ。普段使いとしてはそれで何も問題ないものの、Netflixなどの4K映像を再生する場合、なかなか解像度が上がらないように感じることがあったのは事実。

第2世代のApple TV 4KはWi-Fi 6に対応しているため、新たに無線LANルーターを導入すれば小さな不満が解消されるかも? と思って生活することはや1年以上。今さらながら気になる製品を発見したので、ようやく重い腰を上げて試してみることにしたのだった。

試したのはASUSの「RT-AX89X」

試したのはASUSの「RT-AX89X」

その製品はASUSのハイエンド無線LANルーター「RT-AX89X」。2021年2月に発売された製品のため、「今さら」感はあるのだが、そこはご容赦いただきたい。Wi-Fi 6に対応していることに加えて、以下の特徴が気になるポイント。

●利用環境の目安として「戸建て 3階建」とされており、無線LANの接続性が高そうなこと
●必要であれば独自のメッシュWi-Fi機能「AiMesh」で宅内の無線LAN接続範囲を拡張できること
SFP+端子を持っていること

体感上も測定上も効果大! もっと早く導入すればよかった……

あえて単体の無線LANルーターを導入するのならば、万全のスペックの製品を選びたい、ということでひとつ目の気になるポイントは無線のカバー範囲の広さ。自宅はちょうど軽量鉄骨造の「戸建て 3階建」なので、これまで若干電波が弱めだった場所まで無線LANの電波が届くのではないかと考えた。現在ONU(無線LANルーター)が置いてあるのは、2階部分。1階端の風呂場などで電波の弱い場所があったので、これが改善されればありがたい。

「RT-AX89X」単体でどうにもならない場合でも、独自のメッシュWi-Fi機能「AiMesh」が使えるため、ASUS製品の買い足しでカバー範囲の拡張が可能。現状では必要ないが、将来を見据えた場合にもうれしい機能だ。

ONUの隣に「RT-AX89X」を設置。体積はそれほどでもないのだが、幅を取ることには注意

ONUの隣に「RT-AX89X」を設置。体積はそれほどでもないのだが、幅を取ることには注意

これまでONUが置いてあった場所の隣に「RT-AX89X」を設置。さっそく接続性がどう変わるかテストしてみたところ、確かに、カバー範囲が広い。iPhone SE(第2世代)で試す限り、自宅のどこにいても基本的に無線LAN接続が途切れることはなかった。しかも体感上も、「Googleスピードテスト」上も、これまで以上のスピード感がある。アンテナ8本の偉容に違わぬ効果と言ったところか。

iPhone SE(第2世代)で「Googleスピードテスト」を使った計測結果。上がONUとの無線LAN接続で、下が「RT-AX89X」との無線LAN接続だ(どちらも5GHz帯を使用)

iPhone SE(第2世代)で「Googleスピードテスト」を使った計測結果。上がONUとの無線LAN接続で、下が「RT-AX89X」との無線LAN接続だ(どちらも5GHz帯を使用)

問題のApple TV 4Kの接続性はどうか。「SPEED TEST FOR Apple TV」を使ってONUと比較計測したところ、数値は以下のとおり。5GHz帯で何度か繰り返したが、ダウンロード、アップロードともに「RT-AX89X」のほうが100Mbpsほど高速という結果となった。予想どおりとはいえ、この結果はうれしい。体感として4K映像再生時のストリームが安定したかどうかはわからない部分もあるものの、もっと早くWi-Fi 6対応するべきだった……。

Apple TV 4K(第2世代)での速度計測結果。上がONUとの無線LAN接続で、下が「RT-AX89X」との無線LAN接続だ(どちらも5GHz帯を使用)

Apple TV 4K(第2世代)での速度計測結果。上がONUとの無線LAN接続で、下が「RT-AX89X」との無線LAN接続だ(どちらも5GHz帯を使用)

実はオーディオ・AV用途に重宝されている、SFP端子活用法

ここまでのお話では、わざわざハイエンドモデルを持ち出すまでもないじゃないか、と思われたことだろう。最後のポイント、SFP+端子を持っていることが「RT-AX89X」を指名したもうひとつの大きな理由だ。「RT-AX89X」は有線LAN接続用に10Gbps対応端子を2つ備え、そのうちのひとつはSFP+端子という家庭用製品としてはとても珍しい仕様だ。

「RT-AX89X」はSFP+ポート(中央右端)を備えるとても珍しい無線LANルーター。ここからはこの端子をオーディオ用に活用する

「RT-AX89X」はSFP+ポート(中央右端)を備えるとても珍しい無線LANルーター。ここからはこの端子をオーディオ用に活用する

一般的にはこの10Gbps対応端子を使って宅内LANの爆速化を図るところなのだろうが、我が家の場合は事情が異なる。オーディオ、AV業界ではネットワークにSFP端子での光接続を組み込むことがちょっとしたムーブメントになっているため、それを試してみたかったのだ。わざわざSFP端子を使う理由は、ネットワークに有線LAN接続されたそのほかの機器とオーディオ・AV機器を電気的に隔離(アイソレート)するため。そのためにSFPトランシーバーを介して光ファイバーケーブルを使い、それ以降の信号経路を独立させることがこの手法の趣旨。マニアの間では、“光アイソレーション”なんて呼ばれ方もしている。実際の接続方法は以下のとおり。

これまではONUとスイッチングハブを有線LAN(RJ45)でつなぎ、そのハブ以下にオーディオ関連のネットワーク機器をまとめて接続していた。ONUの別端子にはまた別のスイッチングハブをつなげ、そちらにはPCやNASなど一般のOA機器をまとめていた

これまではONUとスイッチングハブを有線LAN(RJ45)でつなぎ、そのハブ以下にオーディオ関連のネットワーク機器をまとめて接続していた。ONUの別端子にはまた別のスイッチングハブをつなげ、そちらにはPCやNASなど一般のOA機器をまとめていた

こちらが「RT-AX89X」導入バージョン。「RT-AX89X」とオーディオ機器用スイッチングハブを、SFP端子を用いて光ファイバーケーブルでつなぎ、そのハブにはネットワークオーディオプレーヤーなど、オーディオ・AVに関連する機器だけをつなぐ。破線部分がSFP端子同士での接続で、ここで電気的なアイソレーションができているはずだ

こちらが「RT-AX89X」導入バージョン。「RT-AX89X」とオーディオ機器用スイッチングハブを、SFP端子を用いて光ファイバーケーブルでつなぎ、そのハブにはネットワークオーディオプレーヤーなど、オーディオ・AVに関連する機器だけをつなぐ。破線部分がSFP端子同士での接続で、ここで電気的なアイソレーションができているはずだ

オーディオ関連機器をまとめてつなぐスイッチングハブはNETGEARの「GS110TPv3」。SFP端子を搭載するが、こちらは「+」ではない1Gbps仕様。そのため、「RT-AX89X」とは1Gbpsでの接続だ。光アイソレーションだけを試すのであれば、「GS110TPv3」を2台用意する方法もありうる

オーディオ関連機器をまとめてつなぐスイッチングハブはNETGEARの「GS110TPv3」。SFP端子を搭載するが、こちらは「+」ではない1Gbps仕様。そのため、「RT-AX89X」とは1Gbpsでの接続だ。光アイソレーションだけを試すのであれば、「GS110TPv3」を2台用意する方法もありうる

なお、「RT-AX89X」とスイッチングハブ「GS110TPv3」間の接続には、FinistarのSFPトランシーバー「FTLF1318P3BTL」とサンワサプライの光ファイバーケーブル「HKB-LCLC1-01L」(1m、シングルモード仕様)を使った

なお、「RT-AX89X」とスイッチングハブ「GS110TPv3」間の接続には、FinistarのSFPトランシーバー「FTLF1318P3BTL」とサンワサプライの光ファイバーケーブル「HKB-LCLC1-01L」(1m、シングルモード仕様)を使った

即、購入決定! 光アイソレーション入門にうってつけの一台

結果、どうなったか(以下はあくまで本来の用途とは異なる筆者自宅環境下での試用と感想であることに留意されたし)。

ネットワークオーディオプレーヤー兼AVアンプ兼プリアンプとして稼働中のトリノフ・オーディオAltitude16。ここからフロント2ch用のパワーアンプ ベンチマークのAHB2(2台)、スピーカー(英Martin AudioのCDD15)につながる

ネットワークオーディオプレーヤー兼AVアンプ兼プリアンプとして稼働中のトリノフ・オーディオAltitude16。ここからフロント2ch用のパワーアンプ ベンチマークのAHB2(2台)、スピーカー(英Martin AudioのCDD15)につながる

即買いである。テストのために1週間程度「RT-AX89X」を借用していたが、現状復帰したくないので、すぐに発注。現在は自宅で絶賛稼働中だ。オーディオシステムを構築する際、ケーブルの接続次第で意図せず「グランドループ」(信号のグランドがループ状になり、ノイズを拾ってしまう状態)ができてしまうことはよくある話。そういった現象が解消されることでネットワークオーディオのノイズっぽさが減ったりしたらいいな、と思っていた以上の音質改善効果だったのだ。

ドミ&JDベックの「NOT TiGHT」のオープニング、ストリングスの響きの細やかさ、曲が変わって鋭いドラムのリズムが刻まれるそのタイトさが浮き彫りになる。ドラムがブレイクする瞬間のコントラストがより強調されるのだ。さらに、ビリー・アイリッシュの「bad guy」あたりを再生すると、低域の沈み込みにすら影響が出ているように感じられる。もちろん、いい意味で。

比較試聴の場合、機器Aを聞いたあとBを聞き、また戻してみる、という作業をすることがある。今回はその必要性をまったく感じなかった。冒頭のとおり引っ越してから1年ほどの自宅では、オーディオ・AVルームのつくり込みが当面終わらないだろう(それも趣味の一環なので)。そのため、スピーカー、アンプ、プレーヤー以外のいわば「周辺事項」は差し置いておくつもりだった。今回は、その心づもりをたやすく変えられてしまった。Wi-Fi 6に対応するだけならば、もっと安価な製品もあるが、こればかりは仕方ない。

2022年11月9日時点での「RT-AX89X」の価格.com最安価格は5万円超え。「気軽にどうぞ」とは言えないものの、SFP端子を使った光アイソレーションを試してみたいオーディオファンにありがたい製品だ。オーディオ製品としてリリースされているSFP端子付きスイッチングハブは10万円を超えることが多く、どれも相当な高級品。つくりこみの度合いは違うとしても、それと比べれば「RT-AX89X」は「安い」と言わざるを得ない。家庭内ネットワークの環境を改善しつつ、オーディオ・AV環境まで底上げしてくれた、このコストパフォーマンスの高さは疑いようもない。

もちろん、高価な専用品が汎用品にはない魅力を持っていることは言うまでもない。気になる方は以下製品をご参照いただきたい。

「RT-AX89X」に不満点があるとすれば、若干の動作音がすること。このあたりが汎用品の限界とも言える。静かな部屋でなければわからないレベルだが、もしオーディオルームに設置を検討する場合、リスニングポイントから離れた場所に置くなどのケアが必要だろう。

柿沼良輔(編集部)
Writer / Editor
柿沼良輔(編集部)
AV専門誌「HiVi」の編集長を経て、カカクコムに入社。近年のAVで重要なのは高度な映像と音によるイマーシブ感(没入感)だと考えて、「4.1.6」スピーカーの自宅サラウンドシステムで日々音楽と映画に没頭している。フロントスピーカーだけはマルチアンプ派。
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